なぜ重粒子線でがんが治るのか

なぜ重粒子線でがんが治る?

重粒子線も含めて放射線での治療は簡単に言うとこういう理屈です。

  1. 放射線を身体に照射する。
  2. 遺伝子を構成するDNAが傷ついて、細胞の異常分裂、突然変異、組織破壊、死滅など、いろいろな影響をうけます。
  3. ただ弱い照射だと、DNA構造が変形するか切れます。しかし修復力により、元通りのDNAに修復されます。
  4. 強い照射は、がん細胞は死にますが、正常細胞も死んでしまいます。
  5. がんだけを狙って強い放射線を当てることができれば、正常細胞への影響は少なく、がん細胞だけを死滅させることができます。

放射線治療とは、このような放射線の作用を利用してがんの増殖を止め、がん病巣を死滅させる治療法です。治療に当っては効率よくがん細胞を殺して、正常細胞を生かすよう、放射線の量や照射の分割、照射の範囲を調整して行っています。このときに、ピンポイントで正常細胞をなるべく傷つかせないで強い照射が出来るのが重粒子線による治療です。

ガンマ線、エックス線、電子線などは体外から照射すると、体の表面近くで線量が最大となり、それ以降は深さとともに次第に減少していきます。このことから、一方向からの照射では、深いところにあるがん病巣に十分なダメージを与えようとすると、がん病巣より浅いところにある正常細胞により大きなダメージを与えることになります。これを避けるために、多方向から弱い線量をがん病巣に当て、周りの正常な細胞には少なく当たるようにし、がん病巣の線量が高くなるように照射する技術(多門照射法、強度変調放射線治療など)が開発されています。

一方、粒子線はそのエネルギーによって人体内に入る深さが定まり、その飛程の終端近くでエネルギーを急激に放出して止まります。加速器で粒子のエネルギーを調節し、腫瘍の部分で粒子が止まるようにすれば、この現象を利用して照射の道筋にある正常な細胞にあまり影響を与えないで、腫瘍細胞だけを殺傷することができます。

2つの粒子線を比較してみます。陽子線は、細胞致死効果は従来のガンマ線、エックス線などとほぼ同じですが、線量の集中性がこれらより優れています。重粒子線は止まる位置のずれや横方向の広がりが陽子線よりも少ないため、細胞致死の生物学的効果は陽子線の約3倍と高く、神経組織や重要臓器を避けながら精密な治療が可能です。また、酸素濃度の低い腫瘍にも効果が高いという特徴があります。ちなみに線量の集中性に優れているということは、ミリ単位で病巣を攻撃出来るという事です。